ブラジルの奴隷制時代では、カポエイラを含むアフロ文化は常に規制され、奴隷制が廃止されても1890年から1940年までの半世紀にわたり、カポエイラは刑法で禁止されていました。また、近年にカポエイラが文化財・世界遺産としてに登録されたことや布教活動を目的としたカポエイラ・ゴスペルは文化の盗用であると指摘されたり、カポエイラを職業として捉えた法案によってメストリ達から教える権利が奪われる恐れもあり、今でもなお迫害が続いていると言っても過言ではありません。
19世紀前半のブラジルでは黒人奴隷による反乱が多発し、再発防止のために奴隷の行動が厳しく制限されるようになりました。異なる民族の集まりは、お互いの争いごとを増やして反乱分子の団結を防げるとの見方もありましたが、同化政策の一環も兼ねて、ストリートで行われていた《バトゥーキ(batuque)》と呼ばれるカポエイラを含む打楽器中心の音楽とダンスの集いは取り締まりの対象とされていました。[1]
ブラジル人画家ブリッグス(Frederico Guilherme Briggs, 1813-1870)の作品『Negros que vão levar açoutes』では、鞭打ちの刑に向かうカポエイリスタ(カポエイラ使い)の姿が画かれ、ネガティブなテーマですが、19世紀前半のリオデジャネイロ市の貴重なカポエイラの記録です。[2]
19世紀後半のリオデジャネイロ市では、政治家の後ろ盾を受けていた《マウタス・ジ・カポエイラ(maltas de capoeira)》の総称で呼ばれたカポエイラ・ギャングが、暴動や殺人などの多くの事件を起こし、大きな社会問題となっていました。[3] その猛威を止めるべく、1890年の刑法改正でカポエイラジェン(カポエイラ)は《犯罪》として定められ、公の場でカポエイラを行った刑罰として2か月から6か月間の禁固刑または流刑が科せられたのです。[4]
20世紀初頭にリオデジャネイロ市のエリート社会向けに発刊されていた月刊誌『Kosmos』の1906年3月号では、当時、まだ犯罪とされていたカポエイラが特集され、カポエイラ・ギャングの2大勢力《ナゴアス(Nagoas)》と《グアイアムス(Guaiamus)》を模った風刺画とスラングを交えた文章から、リオの象徴的な存在である《マランドロ(malandro)》の狡猾な生きざまを垣間見ることができます。[5]
1940年には再び刑法が改正されて、カポエイラ(カポエイラジェン)の名は条文から削除されたものの[6]、社会に深く刻み込まれた悪いイメージはすぐに払拭されず、一般に受け入れられるようになったのはブラジルの主要都市で近代スタイルの普及が進んだ後の20世紀の後半でした。
カポエイラを初めてスポーツ活動として捉えた法規制は、1998年の曖昧な法第9696号[7] とそれに具体性を持たせた2002年の連邦体育評議会(Conselho Federal de Educação Física)の決議第046号[8] でした。その後も、カポエイラを教えるにあたり、体育の教員免許の資格などを条件とする法案[8] は幾度も提出され、カポエイラが既に無形文化財として登録されていたにもかかわらず、遂に2020年の法案第3640号[9] の議決によってスポーツ系の《職業》として定められ、カポエイラのスポーツ競技化を掲げるブラジル・カポエイラ連盟(Confederação Brasileira de Capoeira)への加入などが義務付けられるようになり、多くの師範(メストリ)からカポエイラを教える権利が再び奪われそうになっています。
カポエイラが初めて盗用されたのは、20世紀初頭のリオデジャネイロ市で試みられたスポーツ競技化の時だったといえます。音楽などの要素が取り除かれた「Ginástica Brasileira」(ブラジル体操)や「Ginástica Nacional」(国民体操)の名称で呼ばれ、カポエイラの白人化とも捉えることができます。
カポエイラの文化財化についても、弾圧と否定を繰り返してきたブラジル政府が、時代の流れといえども、今度は"保護"する名目で都合よくカポエイラを伝統芸能として認めるのは文化の収用であるとも指摘され、カポエイラの形骸化につながりかねないとの懸念もある中、カポエイラは2008年にブラジルの無形文化財に登録され、さらに2014年には世界無形文化遺産としても登録されました(詳しくはこちら)。
また、カポエイラからアフロ文化の要素を排除し、その代わりにプロテスタント教会の讃美歌を取り入れたカポエイラ・ゴスペル(Capoeira Gospel) の布教活動は文化の盗用であるとして、近年、カポエイラ界内外からの批判の的になっています。[10]
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